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成長に抗議する文学【アメリカ文学篇3】

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 ようこそふぎと屋へ。今回もアメリカ文学の続きを紹
介していこう。いよいよ20世紀に突入だ。


成長と反動


 前回は、1890年代ころになって「自然主義」がアメリ
カ文学界でブームになったというような話をした。その
自然主義文学の一翼を担う作家としてセオドア・ドライ
サーがいる。20世紀になって、彼の代表作『アメリカの
悲劇』(1925)が発表されるころ、ドライサーよりも2回
り若い作家たちが次々に話題作を発表していた。例えば、
フランシス・S・フィッツジェラルドだ。第1次世界大
戦時に志願して戦地を踏んだ彼は、戦後『楽園のこちら
側』(1920)を皮切りにアメリカの社会風俗を赤裸々に描
き出した。

楽園のこちら側

楽園のこちら側

 


 さて、こうして文学に新しい風が吹いていた20世紀の
初めは、アメリカ社会の様相も急速に変動していた。そ
れまで農業中心で回っていたアメリカの「牧歌的世界」
は、商工業の隆盛によって一気に「機械化された世界」
へと変貌をとげたのだ。片田舎の農村にまでこの世界は
浸食していった。人々は「自分が作ったモノが自分のモ
ノにならない」という、近代の(マルクス的)疎外に陥
り、アイデンティティを抑圧されていた。要するに「近
代の産業システムの歯車のひとつ」に過ぎない存在にな
ってしまった自分に苦しんでいたんだな。そうした環境
で人生を送る人々を、作家シャーウッド・アンダーソン
は『ワインズバーグ・オハイオ』(1919)で共感をもって
描いた。ちなみに1919年といえば、ドイツでは総合造形
学校バウハウスが設立され、パリではヴェルサイユ条約
が調印されて第一次世界大戦が終わり、そして世界的に
スペイン風邪」が大流行した年だ。


 やがて1930年になって、アメリカの文学者で初めてノ
ーベル文学賞の栄光にあずかる者があらわれる。シンク
レア・ルイスだ。辛辣で鋭い風刺的な目をもって、彼は
農業中心から商工業中心へと移りゆくアメリカ社会に生
きるアメリカ人の自己満足をあらわにした。このルイス
文学賞受賞によって、アメリカの文学は「世界文学」
の仲間入りを果たしたといっていいだろう。
 女性作家の中では、南部ルイジアナのケイト・ショパ
ンが、1960年代末から70年代にかけての「女性解放運動」
のなかで再び脚光を浴びた。代表作『目覚め』(1899)で、
彼女は恵まれた家庭生活に満足できず、姦通を犯して最
期は海で死を遂げる女性を描いた。
 さて、文学史における第一次世界大戦の位置づけも紹
介しておかねばなるまい。このヨーロッパ世界全体を巻
き込んだ戦争は、先の記事で紹介した南北戦争とはまた
違う意味でアメリカ文学に新しい風を吹かせることにな
った。みずから志願して戦地を踏んだ若い文学者たちが、
非人間的な戦争の現実に幻滅をおぼえ、既成のあらゆる
価値を疑う「失われた世代」として戦後のアメリカ文学
界に台頭したのだ。極言すれば、戦争が彼らの文学をつ
くったようなものだ。例えば先日紹介したヘミングウェ
イも、この世代に入る。『日はまた昇る』(1926)や『武
器よさらば』(1929)で、彼は虚無感に耐えて生きる若者
の姿を「からりとした文体」で描いた。

日はまた昇る (新潮文庫)

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武器よさらば (新潮文庫)

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 こうした展開を経たアメリカ文学だが、1929年以降は
また傾向が変わってくる。1929年に何が起こったか。世
界恐慌だ。ウォール街の金融恐慌に端を発するこの大デ
フレーションは、アメリカ文学を「社会の矛盾に目を向
けて抗議する社会性の強い文学」にした。要するにきわ
めて現実的で、批判的な作品が増えたんだ。例えば「失
われた世代」のひとりドス・パソスは、三部作『U.S.A』
(1938)でアメリカ社会を批判的に描き出した。これから
紹介しようと思っているジョン・スタインベックが代表
作『怒りの葡萄』を著したのもこの時期(1939年)だ。
 少し寄り道して、他のシーンにも目を向けてみると、
このころの演劇ではユージン・オニールが「問題作」を
次々に発表しており(『楡の木陰の欲望』など)、批評界
にも「新批評」と称する分析批評が登場している。ジョ
ン・ランサムらを中心にしたこの批評運動は、「テクス
チュア」「ストラクチュア」といった批評用語を今日に
まで定着させることになる。

 さて、今日はこのあたりまでにしよう。次回予告まで
に話しておくと、こうして文化面の様々な展開を抱えな
がら、アメリカと世界は2度目の大戦争へと突入してい
く。南北戦争や第1次大戦で見たように、戦争は社会の
様相を変えるひとつの画期ともいえる。第2次世界大戦
後、アメリカ文学はどのように展開していったのか。次
はそんな話をしようとおもう。
 それでは、良い夜を。