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【物語を食べて生きる】米原万里『オリガ・モリソヴナの反語法』(集英社文庫) #27


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どーも、ふぎとです。
今日は米原万里『オリガ・モリソヴナの反語法』を紹介
するよ。

 

オリガ・モリソヴナの反語法 (集英社文庫)

オリガ・モリソヴナの反語法 (集英社文庫)

  • 作者:米原 万里
  • 発売日: 2005/10/20
  • メディア: 文庫
 

 


作品紹介


 「生まれたての小鳥の雛は、初めて見たものを親だと
思ってついていく」という動物学の法則がある。オース
トラリアのK.ローレンツが発見したもので、刷り込み現
象という。ぼくたちも、小鳥ほどではないにせよ、幼い
頃の「刷り込み」がいつまでも抜けないことがある。小
さい頃に何度も聴いた童謡は、30年振りでも口ずさめた
りする。「三つ子の魂百まで」だ。
 この作品も、そんな刷り込みがかかわっている。60年
代、チェコスロバキアソビエト学校で少女期を過ごし
た志摩は、40歳を越えてもそこで出会ったダンスの先生、
オリガ・モリソヴナの事が気にかかっている。彼女は不
出来な生徒を大袈裟に褒めることで罵るという、究極の
反語法の使い手で、踊りがとびきり巧い。どんな国の、
どんな舞踊をも熟知しているのだ。加えて驚くべきは、
彼女の年齢だ。自分では50歳と言っているが、志摩の見
立てでは「70歳にも80歳にも見え」た。
 そんな向かうところ敵なしの彼女だが、なぜか「アル
ジェリア」に対するトラウマがあるらしい。そんなフラ
ジャイルな面が、後年の志摩を動かした。オリガ・モリ
ソヴナにまつわる謎を解こうというのだ。
 謎が謎を呼び、答えが答えを連れてくるような構成の
おかげで、とても愉しい読書時間となった。しかし、ぼ
くにはその構成以上に、映像を見ているように鮮明な共
産主義社会の描写が印象に残った。特に、「政治犯」の
妻たちが収監される劣悪な環境の監獄や、そこへ移送さ
れる列車内の地獄絵図さながらの状態などは、ドストエ
フスキーの『死の家の記憶』が重ねあわされた。
 この本を読んで気づいたことがある。それは、「すぐ
れたユーモアや物語は、どんな状況でも生きる気力を取
り戻させる」ということだ。


 ある晩、女たちが日中の労働で疲労困憊した肉体を固
い寝台に横たえる真っ暗なバラックの中で、やわらかな
アルトが聞こえてきた。女たちが耳をすますと、それは
一人芝居だった。 (...)キーラ・ザフトマン。本職は女優
ではなく、化学者だったのだが、女たちはたちまちキー
ラの舞台の虜になった。(...)
 それからは毎晩、それぞれが記憶の中にあった本を思
い起こし、声に出してああだこうだと補い合いながら楽
しむようになった。


 この場面では、いつ過労で倒れてもおかしくないほど
過酷な環境での収容所生活を余儀なくされている女たち
が、数々の物語に生きる勇気を貰うようすが描かれる。
記憶の中の書物を取り出して楽しむようすは、レイ・ブ
ラッドベリ『華氏451度』において、主人公が「生きた
本の語り部」たちと出会う終盤のシーンとも重なる。人
間は、本質的に物語を食べないと生きていけない動物な
のだ。いや、むしろ物語を食べれば食べるほど、どんな
状況をも生き抜くという勇気が湧いてくるのだろう。


著者紹介:米原万里


 昭和後期-平成時代の通訳,エッセイスト。
昭和25年4月29日生まれ。米原昶(いたる)の長女。9歳
から両親とともに5年間チェコスロバキアプラハに在
住、ソビエト学校でまなぶ。ロシア語の同時通訳で報道
の速報に貢献し,平成4年日本女性放送者懇談会SJ賞。7
年随筆「不実な美女か貞淑な醜女か」で読売文学賞、9
年「魔女の1ダース」で講談社エッセイ賞。平成18年5
月25日死去。56歳。東京出身。東京外大卒。
(講談社『日本人名辞典』より)


この本をオススメしたい人


・「強く生きる」ためのヒントが欲しい人
・「共産主義の実態」を学びたい人
・謎が解けていく快感を味わいたい人

 

オリガ・モリソヴナの反語法 (集英社文庫)

オリガ・モリソヴナの反語法 (集英社文庫)

  • 作者:米原 万里
  • 発売日: 2005/10/20
  • メディア: 文庫
 

 


ではでは今日はこの辺で。ふぎとでした。